「居抜き物件」に関してよく受ける質問として、提示された造作譲渡費用が不当に高く感じる、あるいは高いのか安いのかよく分からない、といったものがあります。
また一方で「造作無償譲渡」と謳われている物件情報も目にします。
そういった中で造作譲渡費用をどう捉えていけば良いのか?
何を軸に造作譲渡費用の妥当性を判断すれば良いのか?
そのヒントとなり得る造作譲渡費用のカラクリについて述べたいと思います。
物件情報に記載された造作譲渡費用は目安
居抜き物件の募集チラシ等広告を見て、まず確認するのが造作譲渡費用です。
造作譲渡○○万円。
かなりざっくりの金額の記載があることが多いと思います。
また、ほとんどの場合は何から何までどのような状態で譲り受けられるかは書かれていません。
さて造作譲渡の価格は、つまるところ中古の内装、器機類の価格。
すべて自分がその物件を借りた後使い物になるかどうかはその時点では分かりません。
「何かこれ、高いか安いかよく分からないな・・・」
そんな感想を持つのが率直なところだと思います。
物件情報上で分かるのはあくまで、どれくらいのボリュームの造作譲渡費用が掛かるかという目安となります。
譲渡される物の増減と造作譲渡価格
目ぼしい物件が絞られ不動産業者と話を進める中で、造作譲渡の内容が明らかになってきます。
一般的にはその内容は「造作譲渡項目書(リスト)」にまとめられ、その総額としての造作譲渡価格という形式になります。
造作譲渡費用の妥当性については、この段階である程度判断することになります。
交渉の余地がありそうであれば交渉に入ります。
では何をもって造作譲渡費用の妥当性を判断すれば良いのでしょうか?
それを象徴するよく見受けられるケースとして、造作譲渡項目書の中の項目の増減ということがあります。
これは、当初リストに載っていた譲渡されるはずの器機等の物の数が増えたり減ったりすることがあるということです
不動産業者担当者の手違いであったり、物件の元借主の心変わりであったり事情は様々ですが、つまり物件を検討している最中に造作譲渡される「物の数が変わる」ことがあるのです。
その場合、普通に考えればそれに即して造作譲渡価格も増減すると考えたいところですが、そのように行かないことがあります。
不動産業者と検討中の客とのよく見受けられるやり取りはこんな感じです。
不動産業者担当者「このリストの4つめと5つめの器機は前借主さんが持って行くことになりました。」
客「あ、そうですか。では、その分造作譲渡価格は下がるンですよね?」
不動産業者担当者「いやあ、それはちょっと難しいかもしれません」
客「え?何故ですか?」
この疑問は良く分かります。
中古品屋で一つ一つ物品を購入していくことを考えれば、当然その価格は購入する物品の数により増減するものです。
しかし造作譲渡価格は物品の数が当初より少なくなったことに呼応して価格が下がらないケースがあるのです。
それは、いったいどういうことでしょうか?
造作譲渡費用とはいったい何の費用なのでしょうか?
適正な造作譲渡価格とは? 本当は何の価格?
造作譲渡の適正な価格を考えるためには、実は造作譲渡費用の設定の少しウラの部分を理解する必要があります。
実情をいえば、率直なところ造作譲渡価格が譲る「物の対価」であるというのは、あくまでも「便宜上」である場合が多いと思われます。
内装や器機類など中古物の価格である場合、それらの中古品としての価値を正確に査定すると、その金額より造作譲渡価格の方が高い設定がされているケースがかなりの割合であります。
つまり中古品として見積もってもワリに合わないわけです。
では、造作譲渡費用は何に対する価格なのか?
もちろんすべてとは言いませんが、高額な価格が設定されている造作譲渡であればあるほど、「物の対価」という性質よりも「権利金」のような性質を帯びているものといえるかも知れません。
居抜き店舗物件の不動産取引の慣習上、良いことか悪いことかということは別として、です。
少なくとも、一つ一つの物の金額を積み重ねて設定したものではないため、先述のように譲り受ける物品が当初より少なくなったからといってその分が細かく減額されるということがないわけです。
で、「権利金」のような性質とは何かということです。
商業エリアの好立地な物件への出店希望者が多いのは想像に難くありません。
そんな物件は、貸主も強気ならば、退去する前借主ですら強気なこともあります。
その物件を抑えたいと多くの出店希望者たちがアプローチして来るからです。
そこで「権利金」のような「造作譲渡価格」が生まれてしまうのです。
ですので、有望な「居抜き物件」であればあるほど、造作譲渡価格は比例して高く設定される傾向にあります。
繰り返しますが良いか悪いかは別です。需給の力関係、競争の原理が働くのです。
このような居抜き物件の場合、設定された造作譲渡価格の「物の対価」としての適正さを考えるよりも、複数いるその物件での出店希望者を想定し、「その物件を抑えるのに費やす費用」として自分にとって適正な価格か、を考えるべきなのです。
一方で競争のない立地における造作譲渡価格の中には、「物の対価」と考えてもお得なケースもあります。
一つ一つを中古リサイクル屋に売却する手間も時間も省き、「ひとやまいくら」というノリで設定した価格であり、それもほんの気持ち程度の金額であることも少なくないのです。
中には「無償譲渡」の場合もあります。
無償で「造作譲渡」のウラ事情
時には「権利金」のような性質の灰色に感じる造作譲渡価格。
一方で、無償譲渡というケースもあります。
このようなケースの背景はどんなことが考えられるのでしょうか?
そもそも建物賃貸借契約においてほとんどの場合に設定されている条項に「原状回復義務」があります。
契約が終了して退去する際は、原状すなわち元の状態に戻して返す義務があるということです。
ここで、その「元の状態」は何かということになりますが、居住用の部屋でしたら入居した時の状態ですが、店舗物件の場合、契約書上は「スケルトン状態」となっている場合が多いと思われます。
退去時は「スケルトン返し」
こんなふうに店舗物件のやり取りでは慣用的に使われています。
スケルトンとは一言でいうと内装がされていない状態。
内装がされてない状態とは壁、床、天井も貼られていない状態です。
この状態して返すということは、つまり退去時に物品、器機類の撤去や処分を行い、その後専門業者に依頼して自分が営業していた店の内装の通称「原状回復工事」をして返すということです。
そうすることによって次の借主は、自由に自分の店の内装が施せるわけです。
しかし撤去や処分、原状回復工事。これには一定の期間も費用も必要。
一定の期間が必要ということは、その期間の賃料も考えないといけないということです。
一方、退去しようとしている人はその退去理由は様々ですが、多くは店の営業が芳しくないという理由です。
そうすると、時にはスケルトン返しの義務がありながらも、原状回復工事の費用もなく、移転費用もないという目も当てられない状況の人も少なからずいます。
そうした際、貸主と折り合いをつけ造作等の所有権を放棄する代わりに原状回復義務を免除してもらい退去するというようなことがあります。
貸主としては、ある程度整った造作等であればその方が「居抜き物件」として価値が出て次のテナントが決まりやすいかもしれないという考えのもと募集を始めるのです。
こういった背景がすべてとは言いませんが、居抜き物件で造作譲渡無償のワケには大方ウラ事情はあります。
「貸主と折り合いをつけて」と書きましたが、時には店舗の内装も商売道具もそのままで夜逃げされ、貸主も致し方なくその状態で貸し出すしかないということもあるのです。
こうなると、そもそも「造作譲渡」というより単なる「残置物」という性質であるかと思いますが、ものは言いようということです。