一旦契約したのちに頭を冷やして(cooling off)冷静に考え直す時間を消費者に与え、一定期間内であれば無条件で契約を解除できるクーリングオフという制度の存在は、人々の間に大分浸透してきていると思います。
強引なセールスなんかで思わず契約してしまった場合など有難い制度ですよね。
で、この制度、不動産売買においてもあります。
ここでは不動産売買におけるクーリングオフ制度について解説したいと思います。
目次
不動産売買でクーリングオフができるのは、4つの判断基準がクリアできた場合のみ!
さて、不動産売買では何でもかんでもクーリングオフが認められているわけではないので、注意が必要なんです。
不動産売買でクーリングオフできるかどうかは、大まかに次のような順序で判断します。
- 売主が宅建業者、買主が宅建業者でない者である。
- 不動産業者の「事務所等」以外の場所で、不動産売買の申し込みをした。
- クーリングオフができるということについて、書面で告げられてから8日間を経過していない。
- 「引渡しを受け、かつ代金の全部を支払った」にあたらない。
これ、この順番でチェックしてみて、一つでも該当しないものがあるとクーリングオフできないのです!
「売主が宅建業者、買主が宅建業者でない者である」とは?
「宅建業者」というのは、きちんと宅地建物取引業法のもとでお上から免許を得て業を営んでいる不動産業者ということです。
不動産を買う時って、物件そのものや金額は大いに検討しますよね。
でも、その物件、そもそもは誰から買うのか、誰の所有していた物件を買うのかということは、意外とチェックするのは後回しにしがちです。
まあ、「○○さんの所有物件です」と一般人の氏名を言われても、ピンと来ないというのもありますよね。
さて売主の氏名を知ることは後でも良いのですが、実は売主が宅建業者なのか、そうじゃないのかということは、先に知っておくべきです。
これは広告チラシやパンフレットを見れば分かります。
すみっこの方に「取引態様」という項目が記載されているんです。
不動産業者と不動産取引すると一口にいっても、いろいろな形態があるわけです。どんな形態ですかってことを書いてある欄が「取引態様」のところということなんですね。
そこで、ここ見ると「媒介」だとか「専任」だとか書いてあるのですが、「売主」と書いてある場合は、あなたが買うか検討しているその広告チラシを扱っている不動産屋さんが「売主さん」ということです。
建売住宅や分譲マンションなんかおよそ売主は宅建業者です。
中古マンションでも、宅建業者が買い取ってリフォームして販売するというケースがありますので、売主が宅建業者であることは普通にあります。
売主ということは「仲介」じゃないということです。
「仲介」とは、所有者さん(売主)と買主さんの間をつなぎますよ、という意味です。
「売主」が「宅建業者」の場合、通称「自ら売主制限」といって、宅建業者は結構厳しい縛りを課せられるのです。
宅建業者と一般消費者では情報や知識に格差がありすぎるから、一般消費者がその格差を突かれて損させられないようにしましょうということです。
で、その一つがクーリングオフというわけです。
いわば売主である宅建業者に対するハンデみたいなものでしょうか。
ここで重要なのが、逆に売主が一般の方の場合はクーリングオフは適用されないということです。
つまり、売主が誰なのか先に知っておくということは、クーリングオフできる取引なのかどうなのかを先に知っておくということなのです。
ちなみに、売主が宅建業者であっても、買主も宅建業者の場合も適用されません。
「不動産業者の「事務所等」以外の場所で、不動産売買の申し込みをした」とは?
「事務所等」と呼ばれる場所で契約等が行われた場合は、クーリングオフをすることができないということです。
なるほど、不動産業者のお店にわざわざ行って契約するわけで、ある意味相当じっくり考えての行動でしょうから、もう後には引き返せなくても仕方ないかもしれません。
でも、ここでポイントなのが「事務所等」の「等」って何よ?ということです。店舗以外にも、クーリングオフできなくなる場所があるのか?ということです。
答えは、あります。次の①~⑤がそれにあたります。
- 不動産業者が継続的に業務を行うことができる施設で、専任の宅地建物取引士がいなければならない施設
- 10区画以上または10戸以上の宅地建物の分譲を行う不動産業者の案内所で土地に定着し、専任の宅地建物取引士がいなければならない場所
- 売主である不動産業者から代理・媒介の依頼を受けた不動産業者の事務所等
- 不動産業者が、宅地建物取引士を置くべき場所(土地に定着する建物内に限る)で契約に関する説明をした後、展示会等の催しを土地に定着する建物内において実施する場合の、催しを実施する場所
- 申込者、買主から申し出た場合の、申込者、買主の自宅、勤務場所
まあ、ごちゃごちゃ書きましたが、分譲マンション一斉売出しの際に設置されているマンションの建物内の1室の案内スペースとかのイメージですね。
またわざわざ自分の家まで業者を呼んでした契約もダメということです。
つまり、感覚的には買う側がじっくり考える機会があった、と客観的に判断できる機会があったような場所で行った契約はクーリングオフ対象外という感じです。
建売住宅の案内所でよくテント張りの案内所が現地に設置されていますが、こういった場所での契約はクーリングオフできるといってよいでしょう。
ちなみに、買受の「申込み」をした場所と「契約」の場所が違う場合はどうなんですか?という問題がありますが、その場合は「申込み」をした場所を判断の基準とします。
例えば、ホテルのロビーで「申込み」をし、不動産業者の事務所で「契約」をした場合は、申し込みをしたホテルのロビーは「事務所等」ではないので、クーリングオフできます。
逆に、不動産業者の事務所で「申込み」をして後日ホテルのロビーで「契約」をした場合には、「事務所等」で申し込みをしたので、クーリングオフできないというわけです。
ふと考えてみると、高額な買い物なだけに、不動産業者の「事務所等」で契約することの方が一般的なように思いますね。
「クーリングオフができるということについて、書面で告げられてから8日間を経過していない」とは
これは、つまりそのままですね。
ポイントは「書面で」告げられているかというところと、
告げられた日から起算して8日というところでしょうか。
不動産業者からしてみれば、クーリングオフによる契約の解除はされたくないこと。中には、この制度について説明せずに済ませる業者もまだまだいると聞きます。
もし書面による説明がなく契約が締結されている場合は、買主は8日間に制限されることなくクーリングオフにより契約を解除することができることになります。
「『引渡しを受け、かつ代金の全部を支払った』にあたらないこと」とは
特に補足はいらないと思います。
既に物件の引渡しが終了し決済した後で、
「やっぱり物件返すから、代金も返金してください」
ということはできないということです。
不動産売買におけるクーリングオフ制度は、これらの4つの判断基準に1つでも該当しないものがあれば、クーリングオフはできないので要注意です。
クーリングオフができなくても「手付解除」ができる場合がある
さて、クーリングオフできないとどうなるんですか?ということになりますが、
売買契約をきちんと履行するか、もしどうしても契約を解除したいのであれば、別記事でも書いたように「手付金を放棄して契約を解除する(相手方が履行の着手を行っていなければ)」ということになります。
クーリングオフできなくて、さらに相手方が履行の着手をしていた場合はどうなるんですか?というと、それはもう契約は解除できません。契約通りにお願いします、ということになります。
クーリングオフの方法は「書面」で告げることが必須!
クーリングオフの方法は、書面により行わなければなりません。
その書面を発した時に、クーリングオフの効力が生じることになるので、口頭で告げておいて後日、書面を発した時には既に8日間が過ぎていて、不動産業者にクーリングオフを拒絶されたなんてことのないように気をつけたいものです。
クーリングオフができた場合、支払い済みの金銭は返還される
めでたくクーリングオフが出来た場合です。
クーリングオフが出来ると、手付金やその他の金銭をすべて速やかに返金してもらった上で契約の解除に応じてもらえるのです。
不動産業者はクーリングオフした人に対して、手付金やその他の金銭を返還をしなければなりません。
手付金の他に申込金など、あれやこれやと支払っている場合はぜんぶ返ってくるということです。しかも速やかに。全てです。
そして不動産業者は、クーリングオフに伴う損害賠償や違約金などの類のものをクーリングオフした人に請求できないことになっています。
ですので、たまに「契約手数料だけ差し引いて返金しますよ」などと言われたなんて相談を受けますが、そこはきっぱりと「全部お返しください!」と言ってください。
契約書にクーリングオフにおいて不利な特約が入っていたら?
契約書にあらかじめ特約でクーリングオフで申込者に不利なものが入っていたとしても、それは無効です。
例えば、クーリングオフできる期間が5日間になっていたり、手付金を払った時点で、契約解除できるのは手付金を放棄するしかないなど契約に謳われていても、申込者に不利な条項なので消費者保護の観点から無効となります。