「大家さん、この店オレが出て行った後、どうせこのまま他の人に貸すわけですよね?
このバーカウンター、高い木使った一枚板だしさ、ちょっと賃料上乗せできると思いますよ。
ところで、オレが残していく造作に関して安くて良いから買い取ってくださいよ。」
所有するビルの1階をショットバーの経営者に賃貸していたAさんは、借主が退去する際にこんな交渉を受けました。
造作買取請求権とは、ひとことで言うと、賃借人が賃貸人の同意を得て、建物に付加した物(造作)と賃貸人から買い受けた物(造作)に関して、賃貸借契約が終了する際、借主が賃貸人に対して時価で買取りを請求できる権利です。
テーブルやイスは建物に付加した物ではないので造作ではありません。
また、エアコンなど取り外し可能で、そのもの単体で価値のあるものも造作にはあたりません。
あくまでも取り外せない物で、建物に付加されていてはじめて価値がある物。
例えば、一般の居住用の部屋であれば、畳や襖。
店舗であればバーカウンターや厨房設備、間仕切り、天井と一体型となったダウンライトなど照明設備。
賃借人に所有権があり、客観的にその建物(居室)の価値を上げるために付加した物ということになります。
造作買取請求権の放棄の特約は有効
造作買取請求権は賃借人が行使できる正当な権利です。
借地借家法では、基本的には契約上弱い立場にある賃借人の権利を行使できないようにする特約を賃貸借契約において交わしたとしても、それを有効としないのが基本スタンスです。
ところが、この造作買取請求権。
賃借人がこれを放棄する、あるいは賃貸人がこれを認めないという特約を設定することができるのです。
造作買取請求権は、賃借人がひとたび行使するともめるケースが多いといえます。
特に店舗物件の場合、その業種業態によりますが、結構な内装費をかけて店舗ビジネスに挑むテナントさんも多いと思います。
これ、退去する際に造作買取請求権を行使されるとややこしい問題に発展します。
次の借主が同業種同業態の目的で入るのであれば、その内装は価値あるものとなり得ますし、募集の時点で同業種同業態に絞っているのなら良いかも知れません。
しかし、異業種の借主にとっては、どんなお金を掛けた内装であっても、一度解体しないといけない無価値の物。
仮に貸主として、退去時に良い内装であったら多少の面倒はみても良いという考えがあったとしても、賃貸借契約上は、原状回復義務あり、造作買取請求権は放棄、が基本設定の方が無難と思われます。