Aさんは、マンションの購入を考え目ぼしい物件を探していたところ、候補の一つである地域で新築マンションの内覧会があることを知り足を運びました。
そこでマンション販売会社の営業担当者の熱心なトークの影響もあり、Aさん自身そのマンションを購入したいという気持ちに傾きました。
Aさんは営業担当者に契約を強く勧められましたが、一度持ち帰り、他の購入候補の物件とよく比較検討したいと思いました。
しかし営業担当者は、「人気の物件なので、時間を置くと他の方に契約が決まってしまう」と言います。
Aさんとしてもかなり積極的に候補として検討したい物件であったので、何とか一定期間押さえておくことは出来ないものかと営業担当者に掛け合いました。
営業担当者は「購入申込書と申込金10万円を差し入れてくれれば一定期間押さえておくことができる」と回答し、Aさんはそれを受け入れたのです。
これがトラブルのはじまりです。
「申込金」を「キャンセル料」として徴収
Aさんは他の購入候補の物件と比較検討した結果、当該物件は購入しないと決断。
3日後に営業担当者にその旨申し出ました。
営業担当者は、それは仕方がないとしながらも、預かっている「申込金」はキャンセル料となるので返金できないと言い出しました。
購入申込書にも「キャンセル料をご負担いただく可能性があります」との記載があります。
申込後、販売会社とAさんとの交渉の中で諸条件に関し合意に至らず、よって契約を結べないなどのケースであれば、「申込金」は返金されてしかるべき。
しかし今回はAさんの”たっての意向”で申し込みを行い、販売会社も一定期間物件を押さえた状態にしておいたにも関わらず、Aさんの一方的な理由により申し込みを撤回するのであるから、申込金はキャンセル料として徴収し返還できない。
これが販売会社であり営業担当者の言い分です。
申込金を返金しないことは宅建業者の禁止行為
宅地建物取引業法では、「相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、すでに受領した預り金を返還することを拒むこと」を禁止しています。
購入申込書に「キャンセル料をご負担いただく場合があります」と記載されていても何ら効力はありません。
その記載により宅建業法の当該禁止事項の適用が除外されることにはならないのです。
では申込金とは何でしょうか?
住宅購入の場合であれば、契約前に預け入れ、契約成立と共に手付金等に充当されるべき性質の金銭です。
契約前にキャンセルした場合、原則として全額返還されるべきものなのです。
まあ、申込金を差し入れる前に、ひとこと、
「キャンセルした場合、申込金はもちろん返金されますよね!?」
と強く確認しておけばそれで良いと思います。
その際、ウダウダ言う不動産業者であれば、のちのちロクなことにならないので、そもそも検討候補から外すというのも方法でしょう。
ちなみに宅地建物取引業法における宅建業者の禁止は次の通りなのです。
このケースは9に該当するというわけです。
【禁止行為】
1. 手付について信用の供与により契約の締結を誘引する行為
①手付金を貸付けることで契約を誘引すること
②手付金を分割又は後払いにすることで契約を誘引すること
2. 断定的判断を提供する行為
①利益を生ずることが確実であると誤解させる言動
②将来の環境又は交通その他の利便について誤解させる言動
3. 威迫により契約を締結させること
4. 契約を締結するかどうかを判断させるために必要な時間を与えることを拒むこと
5. 勧誘に先立って宅建業者の名称・勧誘者の氏名・勧誘の目的を告げずに、勧誘を行うこと
6. 契約を締結しない・勧誘を受けることを希望しない旨の意思を表示したにもかかわらず、勧誘を継続すること。
7. 迷惑を覚えさせるような時間に電話し、又は訪問すること
8. 深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法により困惑させること
9. 契約の申し込みの撤回に際し、受領している「預り金」の返還を拒むこと